「内藤哲也『主役になり切れない』ところが魅力」論

2020年5月2日記

 

内藤哲也,新日本プロレス

新日本プロレスに限らず、他の団体、そしてエンタメ業界を襲った今回の新型コロナウイルスの影響。

 

新日本プロレスで言えば、2月26日沖縄県立武道館大会を最後に興行停止中。

 

ファンの期待大だった2020年3月3日大田区総合体育館大会メインイベント「内藤哲也vs高橋ヒロム」のロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンの同門対決にして、初対決にして、IWGP王者対決にして、現状新日本プロレスの黄金カードの一つと言っても極上のマッチアップ。

 

その初シングルも、新型コロナウイルスの影響で興行中止。一方で、この中止そのものこそが「内藤哲也」らしいという玄人ファンからの声をツイッターで見ました(苦笑)。

 

内藤哲也の歴史がそう言えるのでしょうか?

 

 

主役になり切れない内藤哲也

個人的に「プロレスラー内藤哲也」の歴史は、2013年6月から始まっているように思っています。

 

この頃、内藤選手は右ひざのケガで長期欠場中。2013年5月3日「レスリングどんたく」福岡国際センター大会で姿を現し、高らかに復帰宣言を。

 

昨年の10月に右ひざの手術をし、だいぶ時間が経ってしまったんですが、このリングの主役になるために帰ってきました。
6月22日大阪大会「DOMINION」で復帰することが決定しました。

 

内藤哲也リング上からの復帰宣言
まわりのレスラーにだいぶ差をつけられてしまったとは思いますが、この欠場期間中に溜め込んだもの全てぶつけ、そして下半期、一気に主役の座に躍り出たいと思います。このリングの主役は俺、内藤哲也、よろしくお願いします。

 

 

そして、2013年6月22日「DOMINION 6.22」大阪府立体育会館大会で復帰戦を飾ります。相手は高橋裕二郎選手。結果は

 

■内藤哲也復帰戦
○内藤哲也
(15分1秒、片エビ固め)
●高橋裕二郎

スターダストプレスからの片エビ固めで内藤哲也のピンフォール勝ち

 

高橋裕二郎選手とは、前年10月の両国国技館大会で対戦。散々膝を徹底的に痛めつけられ、欠場に追い込まれた因縁の相手。
リベンジを果たした内藤選手は、この2か月後に「最初に主役になった」瞬間が。そう、夏の祭典・G1クライマックス初優勝へ。

 

 

棚橋弘至とG1クライマックス優勝決定戦が最初の分岐点

2013年のG1クライマックスは「棚橋弘至選手vs内藤哲也」の一戦。最後はスターダストプレスで棚橋選手から勝利&G1クライマックス初制覇。復帰から2か月→G1クライマックス優勝は、中々出来ることではありません。

 

が、このG1クライマックス優勝から先の内藤哲也は、どんどん落ちていったように思います。

 

内藤選手本人の思いの一方で、ファンが内藤哲也をどう応援していいかわからないというある種のジレンマが生まれます。それはファンから「ブーイング」となって不満が噴出。ブーイングは主に大阪大会で突出して凄かったという。今でも内藤選手が大阪のファンをいじるのはそれが理由だったりします(苦笑)。

 

2013年から2014年の新日本プロレスは、IWGPヘビー級王者オカダ・カズチカ、IWGPインターコンチネンタル王者中邑真輔、棚橋弘至、そしてAJスタイルズの4人が中心に回っていました。内藤哲也は主役になるべき存在なのに、この4人に食い込めない時期がかなり続きます。本当にこの頃の内藤選手はきつかったろうなと思います。

 

主役になるべきなのに、中々なれない。なぜだろう?本人にも、そしてファンの中にも同じような考えがモヤモヤとなって長期間続きます。
それが「リング上の結果」として決定的に現れたのが、2014年1月4日「イッテンヨン」でした。

 

 

主役になり切れない内藤哲也

2014年1月4日「レッスルキングダム8」東京ドーム大会。新日本プロレス、そしてプロレスファンの初詣ともいうべき恒例ビッグマッチ。
内藤選手は前年でG1クライマックス優勝→東京ドームでIWGPヘビー王座挑戦権利書保持者。当然、IWGPヘビー選手権ですから、誰もが

 

★「レッスルキングダム8(東京ドーム大会)」IWGPヘビー級選手権試合
<王者>オカダ・カズチカ
vs
<挑戦者・2013G1クライマックス優勝者>内藤哲也

 

この一戦がメインイベントで行うだろうと誰もが、戦う本人達も思いたことでしょう。が、会社は「もう一方のIWGP」とメインイベントはどちらがいいか、ファン投票で決めるという、まさかの展開に。私も「えっ??」となったことを今でも忘れません(苦笑)。「もう一方のIWGP」こと

 

★「レッスルキングダム8(東京ドーム大会)IWGPインターコンチネンタル選手権試合
<王者>中邑真輔
vs
<挑戦者>棚橋弘至

 

 

「IWGPヘビー級選手権試合」と「IWGPインターコンチネンタル選手権」、どっちが東京ドーム最終試合がいい!?というファンへの問いかけ。
この時は、興行そのものを盛り上げたいという思いもあったのでしょうが、興行会社としてえげつないなとも思いました(苦笑)。

 

結果は、「IWGPインターコンチネンタル選手権」の方が投票多数で決定。

 

なぜIWGPヘビー級ではなくインターコンチネンタルだったのか?この時のファンの気持ちは

 

「オカダvs内藤」よりも「中邑vs棚橋」戦への思い入れが明らかに上回った
内藤選手への信頼感がそこまで高くなかった

 

この2つが要因に繋がったのかなと、当時は感じました。
あれから6年経過した今、その要因に付け加えるとすると、「主役になり切れていない内藤選手をファンがまだまだ信頼しきれていなかった」とも言えるのでは?と自己分析しています。

 

さて、「ダブルメインイベント」として位置づけらた両試合。その第一試合。・実質的にセミファイナルに降格を食らった「IWGPヘビー級選手権試合」。獲りたくてしかたなかった頂・IWGPヘビー王座。30分を超える激闘は内藤選手に現実と現状を突きつける結果に・・・。

 

■IWGPヘビー級選手権試合
<王者>○オカダ・カズチカ
(30分58秒、片エビ固め)
<挑戦者>●内藤哲也

レインメーカーからの片エビ固めでオカダ・カズチカのピンフォール勝ち、王座7度目の防衛

 

レインメーカーの前に惜敗。
G1クライマックス優勝→IWGPヘビー級王座奪取で一気に主役に躍り出るはずだったが、やはり主役になり切れなかった内藤選手。
ロス・インゴベルナブレスと巡り合うまで、まだ1年5月前。

 

この主役になり切れない感覚は、ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンでブレイクしてもまだ続くように思います。

 

 

2016年NEW JAPAN CUP優勝→IWGPヘビー級王座「強奪」で大ブレイク

2014年のイッテンヨンから2015年の5月辺りまで、ファンからの「信頼感」を得られず、大阪大会では相変わらず大音量での「ブーイング」。
時に落ち込んだことかと想像できます。が、それを徐々に楽しむようになっていた節も感じます。

 

ある時の棚橋弘至選手のポッドキャスト番組「棚橋弘至のポッドキャストオフ!」の中で、棚橋選手が語ってました。大阪大会でのブーイング。試合が終わって引き上げる時もブーイング。

 

次の試合でバックステージにいた棚橋選手とすれ違った時に「また(ブーイング)貰いましたよ(苦笑)」と一言二言会話したとか。内藤選手の中で確実に心境の変化が見て取れます。徐々にヒール寄りな発言も。個人的に面白かったのが2014年10月の両国国技館大会での試合

 

 

■「KING OF PRO-WRESTLIG(両国国技館大会)」東京ドーム・IWGPヘビー王座挑戦権利証争奪マッチ
<権利書保持者>○オカダ・カズチカ
(19分17秒、片エビ固め)
<挑戦者>内藤哲也

レインメーカーからの片エビ固めでオカダ・カズチカのピンフォール勝ち、権利証防衛

 

2014年のG1クライマックスの公式リーグ戦でオカダ選手から勝利した内藤選手。その因縁を引きずっての権利証戦。
試合はオカダ選手がG1クライマックスのリベンジで勝利。権利証保持。試合後の内藤選手のコメントの一部に注目

 

「新日本プロレス、新日本プロレスファンの皆さん、強かったね。オカダ勝ってよかったじゃない」

 

どちらかというとベビーというよりは、ヒール寄りな発言とコメント。この頃から、内藤選手の中に「ヒール的な何か」が生まれ始めたのでは?と思いました。

 

2015年5月の「ロス・インゴベルナブレス」電撃加入。ファイトスタイルも一新。完全にヒールファイトに徹するようになります。それから少しして大ブレイク。この一連は昔の

 

1994年蝶野正洋G1クライマックス優勝→ヒール電撃転向→数年伸び悩む→nWoで大ブレイク

 

と重ります。
内藤哲也の大ブレイクは2016年4月やって来ました。

 

■「INVASION ATTACK2016(両国国技館大会)」IWGPヘビー級選手権試合
<挑戦者>○内藤哲也
(28分50秒、体固め)
<王者>●オカダ・カズチカ

デスティーノからの体固めで内藤哲也のピンフォール勝ち、第64代王者に。

 

前月の「NEW JAPAN CUP2016」に優勝を果たした内藤選手。その勢いは、時のプロレス界の最先端であるオカダ・カズチカをも飲み込みます。

 

SANADA選手の乱入・介入からのベルト強奪ではありましたが、場内のファンはブーイングは無し。あれだけブーイングを食らわしていたのに。それは内藤選手が言うところのまさに「手の平返し」。

 

ダーティー寄りなファイトなのにファンはそれを受け入れる。当日実況席で解説していた真壁選手も、その反応に戸惑っていたように思います。

 

その理由はおそらく「中邑真輔」「AJスタイルズ」の喪失感を埋めようとしてのことなんだろうなと。特に中邑選手への喪失感は当時相当なものでした。

 

この年・2016年初頭に新日本プロレスを退団しWWEに闘いの場を求めた中邑選手。彼に代わるスターを、ファンが求める・渇望するという心理が当時あったはず。そこに上手くハマったのが内藤選手の存在。その存在感・ファイトスタイルは、時代の空気とマッチしたのではないでしょうか。棚橋選手曰く「ヒールベビー」という、今までの概念にないスタイルがファンの喪失感を埋め、それ以上のものを与えたように思います。

 

そんな衝撃的なIWGPヘビー強奪劇から2か月後の「DOMINION」大阪城ホール大会で再びオカダ・カズチカと対峙。今度は「王者」「挑戦者」立場を入れ替えてのリマッチ。ここで思ったのがオカダ・カズチカの絶対的主人公感でした

 

 

内藤哲也とオカダ・カズチカの主役感

2か月後のリマッチ。内藤防衛か、オカダ奪還か。時代は内藤哲也を選んだ感覚だったので、ここは内藤哲也防衛かと思っていましたが、その結果にやられました。

 

■「DOMINION6.19(大阪城ホール大会)IWGPヘビー級選手権試合
<挑戦者>○オカダ・カズチカ
(28分58秒、片エビ固め)
<王者>●内藤哲也

レインメーカーからの片エビ固めでオカダ・カズチカのピンフォール勝ち、第65代王者に。

 

オカダ選手によるベルト奪還劇。この結果は個人的に「まさか」でした。

 

ここで思ったのが、「内藤哲也は主人公の一人だけど絶対的主役になり切れない」と「オカダ・カズチカの絶対的主役感」。
ある種の表裏一体のようにも思えるこの両者。それは今、2020年でも感じることです。

 

 

2020年東京ドームでの「デハポン」大合唱、KENTA乱入によりお預け
ファンが待ち望み渇望した「高橋ヒロム戦」が、新型コロナウイルスの影響で流れてしまった現実

 

内藤選手の「主役になり切れない」「ギリギリなところで何か持っていない」あの独特な何か。その何かにもファンが惹きつけられる要因なのかなと。それはまさに「トランキーロ」なんですかね。

 

(この項、終わり)